墨のお話

墨の原料は煤(すす)です。しかしながら煤だけでは墨は成り立つことが出来ません。膠(にかわ)の力が必要です。膠が煤の大・小粒子を包み込むことで木・紙・布に浸透・定着が可能となります。ところがご使用される墨には問題点が山積してまいります。

練り墨
表具性はごく僅かに限られています。ある一定濃度以上に薄めないと表具は出来ません。用途・注意書等をご確認下さい。
染料系液墨
表具をする時、湿気を与えただけで墨色とは違った汚い色が広がってきます。この液墨はどういう意図で作成された製品なのかはよく理解ができません。少なくとも「作品用には向かないスミ」です。メーカーも製造自体を考えて欲しいスミです。(墨ではないと思います。)
墨液(一般液墨・墨汁)
これらは一般的に多数の方々がご利用されています。作品の制作にも使われます。 大切な注意を申し上げたいことがございます。これらの製品は濃度を保つことが大切です。容器に移して使用されているとき液墨中の水分の蒸散が始まり濃度の高い墨を使うことになりますが、この様な状態で揮毫された作品は墨の粒子が本紙に入り込めずまた定着性も弱い状態のまま作品となってしまいます。表具時の滲みの原因になります。 特に乾燥時の部屋(エアコン使用時)には1時間位で変質・濃墨化が始まります。 時々水滴等で水を加えながらのご利用をお勧めいたします。折角の作品ですから。
固形墨
かつては「墨」と申せば硯で磨ってこその液墨でした。最近の作品を見させて頂きましても固形墨を磨った磨墨液を使われている頻度は少なくなってきていると感じます。 この磨墨液でも昔から喚起されている注意点があります。 それは磨墨してから長い時間が経過してしまって変質してしまった墨、宿墨(死墨)です。 これは墨の粒子を覆っていた膠が離れてしまい墨の粒子が本紙の繊維に入り込まず定着していない現象が起きます。また墨跡にはその回りに茶色の隈が出たりすることもあります。 これら変質墨液作品には定着の所作を施したり、隈が汚れに見えないようにする隈取りも作業工程に加えております。